館長の写真日記 令和5年7月8日付け:最上義光歴史館

館長の写真日記 令和5年7月8日付け

 博物館の機能は、物を収集、調査研究、展示を行う中で、どう物について語っていくのかということにあるのですが、刀剣についてはその「物語り」に新たな軸が加わってきました。そうです。刀の擬人化です。刀剣鑑賞に新たな物語が加わり、昨今の刀剣ブームの一役を担うものともなっています。
 もとより刀剣には、「物語り」がついてまわるものが少なからずあります。鬼を斬ったという刀も一本や二本ではなく、鵺(ぬえ)を退治した恩賞に朝廷から与えられたとか、法師に化けた蜘蛛の妖怪を斬ったとか、幽霊を斬ったと思ったら石灯籠だったとか、とにかく、そういう話がついてまわり、いや、そのような話ばかりではないことがもちろん多いのですが。
 ちなみに刀にまつわる博物館の話としては、東京都墨田区にある刀剣博物館は、「刀令後本来の日本刀の役割を終え、更に第二次世界大戦後、日本刀は武器と見なされ駐留軍による没収の的となり壊滅の危機に瀕し」たことが契機となり、日本有数の刀剣博物館となっています。
 駐留軍により没収された刀剣類のうち、廃棄処理を免れて後世に伝わった一部を赤羽刀(名の由来は刀が集められた場所による)と呼びますが、当館で現在展示している中にも、この赤羽刀があります。この刀は米国まで渡ったのですが、茎の銘とともに刀剣彫刻があり、来歴が分かったため元の所有者に戻ったというものです。
 刀剣を主とする博物館は全国にいくつもあり、日本最大級の約500振の刀剣を所蔵する名古屋刀剣博物館では、新館を増設中。岐阜県関市には、刀工の他にも各職人が揃っていたため赤羽刀480本が譲渡され、その一部が関鍛冶伝承館で展示されています。
 一方、岡山県倉敷市には、「刀剣の郷」として開館し、日本刀の売買と鑑定書も出すという倉敷刀剣美術館があり、宮城県大崎市には、「日本刀の源流は東北だった」との展示テーマをもつ中鉢美術館があるなど、まさしく群雄割拠の状態にあります。その大崎市ではつい先月、新市庁舎の開庁記念として、庁舎1フロアに560振りの刀を展示し、ギネス世界記録に認定されました。
 一方、国宝の刀剣は現在、短刀、長刀、拵(こしらえ)を含み118本あり、うち19本を東京国立博物館が所蔵しています。その展示室「刀剣の間」は、多くの見学者が溜まっている場所です。県内には鶴岡市に国宝の刀が2振あります。
 このような状況のもと当館は、国宝もなく、ギネス級の数の刀もなく、はてさて、なにをどう話題にしたらよいものかと。なになに、聞くところによると、刀をキャラクター化・ビジュアル化してミュージカルもどうしたとかで、とにかく擬人化された刀剣が人気であるとな。
 ということで、最上家に所縁のある刀で擬人化されたものを探したところ、ありました。過去に当館でも展示したことのある京都・北野天満宮の「太刀 銘安綱(鬼切)」です。
 平安時代に、坂上田村麻呂が鬼女の鈴鹿御前を討伐し、伊勢神宮に奉納した刀です。夢のお告げにより源頼光がこの刀を受け取り、家臣の渡辺綱に貸し与えました。渡辺綱は、京の一条戻り橋で宇治の橋姫という鬼女に襲われ、その腕を切り落としたとのことです。のちに、斯波高経を経て最上家が家宝として所蔵、明治時代に北野天満宮に奉納されました。
 この由来により「鬼切丸」と称されてきましたが、北野天満宮は2017年より「髭切」とも称しています。その名の由来は、試し切りで罪人を切った際に、その髭まで切ったとの伝説によります。北野天満宮では2018年に「刀剣乱舞 とうらぶ髭切 北野天満宮宝刀展13」を開催。その際、この刀をキャラクター化し、御朱印などとともに販売しました。
 まずは見つけました。さあ、これで刀剣好きにも太刀打ちできるぞ、と武者震いしたのですが、当館学芸員によると、重要文化財でも重要すぎて、再び借りることは困難とのことでした。正直、私自身は刀剣について全くの門外漢で、まあ、戦国時代のあらゆることに門外漢なのですが、「持ち主に祟る刀」だとか、「人を操る妖刀」だとか、頭にあるのはその程度の話だけなので、刀剣にも歴史人物にも何やら詳しそうな方が見えた場合には、学芸員やボランティアさんを頼み、自分はそそくさと自席に引っ込みます。
 もっとも、重要文化財クラスの刀にも、鬼女やら酒呑童子やら祢祢(ねね)と呼ばれる妖怪やら、雷を斬ったと言われる刀まであり、こうなると刀のキャラクター化とどっこいどっこいな感じでもありますが。ちなみに、抜かれれば必ず血を見ると言われる「村正」は、「刀剣乱舞」での設定では、「恐ろしいほどの切れ味をもつ実践向きの打刀。何かにつけて脱ぎたがる癖がある」となっています。それにしても、なぜ脱ぎたがる。


「太刀 銘 安綱 号鬼切」(京都・北野天満宮 蔵)


「鬼切丸」ペーパークラフト 
当館ホームページから無料でダウンロードできます。