館長の写真日記 令和5年6月14日付け:最上義光歴史館

館長の写真日記 令和5年6月14日付け

 現在、上杉博物館で開催している「上杉景勝と関ヶ原合戦」後期展示に「長谷堂合戦図屏風(複製)」が貸し出されています。合戦図屏風というと、関ケ原合戦図とか川中島合戦図とか様々ありますが、東北の合戦を描いた屏風は希少とのことです。
 そもそも屏風は「風を屏(ふさ)ぐ」という風よけのための道具です。これになぜ合戦を描くのかというと、宮島新一山形大学教授(日本絵画史)から寄稿いただいた「歴史館だより16」によれば、「近世に入ると合戦図は、時間の経過を追って場面が展開してゆく絵巻から、戦場の地形や展開する部隊を描くのに適した大画面、すなわち、屏風へと形式が変わってゆく」とあります(以下、「 」内はこの引用)。しかも屏風は折り畳みができ、紙蝶番により連続的な描画ができることも一因でしょう。
 合戦図の目的には二つあり、「一つは家祖の軍功を図化して世間に明らかにすること」。もう一つは、「合戦の状況を可能な限り調べて記録しようとする」こと。「それが文章で表現されれば「軍記」となり、絵画化されれば「合戦図」となる」。「長谷堂合戦図屏風」を描いたと伝えられる戸部正直は、実に、奥羽地方の永禄年間から慶長年間までの軍記物語「奥羽永慶軍記」40巻を著した人でもあります。
 ただ、記録性という点では、「(合戦図の)多くは時がたってから回顧的な視点によって描かれたものばかりである。」とのことで、例えば「長谷堂合戦図屏風」も、戸部正直が生まれたのは、最上義光の没後であり、「援軍として参陣した伊達勢はまったく無視されている。登場する武士の数は少なく」、「地形も無視されている」そうです。記録の精度とは別のところに意味があるようです。
 一方、実際の様子を残そうとした人もいて、徳川家康は関ヶ原の戦いに土佐派の絵師を同行させており、出来上がった関ヶ原合戦図屏風は、八曲二双の四隻三十二扇の大屏風だったそうです。通常の屏風は六曲一双、長谷堂合戦図もこの規格ですが、これを比較すると、テレビで言えば120インチと45インチぐらいの違いになります。
 また、絵巻などの日本の絵画は、文字と同じ方向、つまり右から左に向けて鑑賞しますが、これが時間軸にもなります。そして屏風にも時間軸を入れることができます。まず、扇(パネル)ごとに時節を変えていく方法。屏風の扇の順番は、向かって右から第一扇、第二扇と数えますが、この順に時間も流れていきます。花鳥画などは、春夏秋冬の順や12ヶ月順で描かれます。あとは金雲を使う方法。典型的なのが洛中洛外屏風で、金雲をさしこむことにより、時期が異なる祭りや風俗を描き、空間的にも建物などの位置を自在に伸縮させています。実は金雲は、場面転換のお約束ともなるものです。
 屏風の鑑賞にあっては、まずは俯瞰で全体像を目にするわけですが、先ほどの日本画鑑賞の方法に基づき、端から近付いて順に鑑賞すると、屏風の折り目の陰から不意に新たな図像が現れます。絵巻でも不意に新たな図像が現れることでは同じなのですが、屏風の場合は山折り谷折りにより図像が立体的に見えることがあります。大画面で、しかも立体的、これこそが屏風図特有のもので、実物を見に行かなければ体験できないことなのです。
 最後に屏風に係ることわざを一つ。「人と屏風は直には立たず」。これは、屏風は折らなければ立たないように、人も道理に縛られず、適当に妥協しないと、世間を渡って行けないということの意です。なんか夏目漱石の小説「草枕」の書き出しを思い出します。「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る」。屏風画もそんな悟りから出来るものなのかしらん。

〇 ここで屏風豆知識
 屏風の数え方ですが、パネルを扇、つながっている扇の数を曲、つながったものの数を隻(せき)といい、隻が二つで双といいます。つまり、八曲二双の四隻三十二扇というのは、二双=四隻なので、八曲×四隻、つまり八枚仕立ての屏風が四つで三十二扇からなっているということをあらわしています。双になっているものについては、向かって右側の屏風を右隻、左側の屏風を左隻(かつては左右逆)といいます。六曲一双というのが定番ですが、二曲一双でも結構なパノラマ感が得られます。

〇 ここで鑑賞豆知識
 日本画、とりわけ障壁、屏風、掛軸などの室内装飾的なものは、手前で畳に座って観るのが基本です。というのも、その作品が想定している視座になるからです。また、照明も重要です。作品が置かれる環境を再現するという点から、家屋に入り込む自然光というのが理想となります。特に金箔屏風などは、薄暗い屋内の中で金箔が輝くことでその効果が発揮されると言います。鑑賞位置も照明も展示側の課題となるわけですが、先進的な博物館や企画展示では、それに対する取り組みがなされています。例えば、観賞用に茶室を拵えたり、明かりが朝昼晩と移りゆくよう再現したところもあります。

〇 ここで雑ネタ
 右から左に向けて読むということは、マンガも同じです。マンガを横文字に翻訳するときは、左から読めるように、版を反転させたり左右のページを入れ替えたりしています。最近では、漫画の電子書籍化にともない、スマホで縦にスクロールして読めるようにコマ割りまで直したりしています。韓国では、最初からこのスマホ縦スクロール向けだけの作品を作る作家もいるそうです。まあ、四コマ漫画なら、最初から縦スクロールですが。


写真 長谷堂合戦図屏風(複製)